原賠審 中間指針見直し不要

東京電力福島第一原発事故に伴う賠償指針(中間指針)を作る国原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は、1日に大熊町などを視察しました。被災地の首長からは処理水海洋放出による新たな被害を懸念し、指針見直しを求める声が上がった。内田貴会長は「既存の指針で足りなければ見直すことになる」と述べつつ、「必要性はない」としました。

視察後は、大熊・富岡・浪江・双葉の4町長らと意見交換をし、町長側からは処理水海洋放出による風評被害を懸念する声が上がりました。

内田会長は取材に対し、「処理水も風評の原因になり得るが、風評は原発事故後から発生しており、これまで賠償範囲を広げてきた。政府が風評対策に取り組めば風評は起こらないが、今後も注視したい」と話しています。

※中間指針は2011年8月に公表され、2013年に避難指示の長期化などに伴い、第4次追補が公表されたが、以降見直しはされておりません。

高松高裁判決、原告全面勝訴

愛媛県に避難した10世帯23人が、国と東電に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が先月29日、高松高裁で下された。神山隆一裁判長は、一審の松山地裁に続き国と東電の責任を認め、約4600万円の賠償を命じた。その賠償額は「ふるさと喪失慰謝料」を認めるなど、一審の約2700万円から上積みした。

集団訴訟控訴審判決は今回で4件目となり、うち国の責任を認めたのは、昨年9月の仙台高裁、今年2月の東京高裁に続き3件目となった。

神山裁判長は、国は東電に対し長期評価に基づくシミュレーションを指示すれば津波の危険性を認識できたとして、その措置を怠ったことは著しく合理性を欠くとして国の責任を認めた。

 

これほどまでに、明確かつ全面的に国の責任を認めた判決としては、仙台・東京高裁判決をも上回る判断であったと思います。今後の同種裁判にも大変大きな影響を与えそうです。

なお、国および東電は、上告するかについては明言していません。

【処理水】IAEAが調査団を派遣

経済産業省は先週9日、国際原子力機関IAEA)の専門家が12月をめどに福島第一原子力発電所の敷地内にたまる処理水の安全性検証に着手すると発表しました。

海洋放出前の水の状態や放出方法について確認する。IAEAによると放出反対の中国・韓国の科学者も参加するとし、放出より前に報告書を公表する。

IAEAはすでに当面の日程などについて日本政府と合意しており、来日中のIAEAのリディ・エブラール事務次長は記者会見で「近々、専門家を選んで準備会合を開く。外部専門家は11ヵ国で構成され、中国や韓国の専門家もきっと入るだろう。」と話した。

 

※政府は今年4月に処理水の海洋放出を決め、東電は原発の沖合1kmほどの距離で放出する考え。中韓は海洋放出決定に反発しており、中韓含む10以上の国や地域が日本の海産物などの輸入規制を続けている。

第二陣九州避難者集団訴訟

九州に避難した住民が国と東電に損害賠償を求めた集団訴訟で、第二陣にあたる福岡・長崎の四世帯七人が先週9日、一人あたり330万円の賠償を求めて福岡地裁に提訴しました。

先行訴訟は昨年6月、七世帯二十四人に計約490万円を支払うよう東電に命じた一方で、国の責任は否定された。現在も福岡高裁で審理が続いている。

神奈川避難者集団訴訟第二陣 提訴

福島第一原発事故で避難した住民らが口と東電に損害賠償を求めた集団訴訟で、神奈川県内の住民ら5世帯16人が今月3日、横浜地裁に提訴しました。請求額は計約1億6千万円です。

第一陣の住民らが2014年までに約54億円の賠償を求めた同種訴訟では、2019年2月に国と東電に約4億1900万円の賠償を命じましたが、双方が控訴し東京高裁で審理が行われています。

訴状では、東電は事故を想定できたのに対策を怠ったこと、国は東電への規制を怠ったことを主張し、避難を余儀なくされた慰謝料等を求めています。

 

8/25付 東電処理水に関するプレスリリース

昨日、東京電力ホールディングス株式会社が処理水の扱いに関するプレス発表をしました。主な内容としては、「全体の検討状況・設備の検討状況・賠償について」の3つが示されましたが、そのうち賠償について触れたいと思います。

 

資料はパワポ9頁に渡り、概要は以下の通り。

①賠償期間、地域、業種を限定せずに賠償に応じること

②これまでの賠償データや、地域や業種の統計データを用いた損害の推認

③これまでの賠償を受けていなくても、新たに風評被害が生じた場合でも賠償に応じること

④損害の算定にあたっては、処理水放出前後の売上差を損害額とする

 

まずは賠償を拒むことはせず、広く受け付ける姿勢を見せました。その点は評価に値するものだと思います。一方で、使用する統計データやコロナ禍で曖昧であろう処理水放出前の売上の確認方法など、具体的判断基準は示されていません。

結局賠償できないされないケースも考えられますが、まずはそもそも風評被害を発生させない取り組みに期待したいところです。

処理水放出に伴う風評対策施作が示されました

東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する方針決定に伴い、政府は20日、情報発信による風評対策をまとめた施作パッケージを正式に決定した。消費者や海外に対する理解促進を目指し、関係閣僚会議を経て今夏中に行動計画に盛り込む。

パッケージは同日、関係省庁による「風評対策タスクフォース」の会合で示された。その基本的考えとしては以下の通り。

①政府一丸となった正確な情報発信

②(福島県など)地元の思いを受けた取り組み

③海外への戦略的働きかけ

④国内外の状況の継続的な把握による効果的な対応

具体的には以下

・消費者に身近なインターネット広告による情報発信のほか、学校の放射線の副読本に処理水に関する記載を追加する。

自治体が構築した対策を財政支援する。

・海外報道機関に福島の原状を把握、発信してもらう。

・国内外の消費者の処理水の安全性に対する認識をインターネットで継続的に調査する。

 

さて、政府が風評を起こさない対策として示した今回のパッケージに対する評価はさておき、県内等の漁業者団体は「どんな対策でも風評を防ぐのは難しい」とし、以前放出反対の姿勢だ。目下東電が策定中の風評被害が起きた際の賠償制度について、早々に公表しなければその評価できず、対策と補償の両方が示されて初めて処理水問題が一歩前進と言えるだろう。