ADR和解打ち切りのメディア煽動について

通常、何かトラブルがあれば裁判による裁判所の判断を仰ぎますが、車の事故のように多くの紛争が発生するケースでは、裁判外の和解を目的とした仲介手続き(ADR)で解決を図ります。原発事故でもこのADR手続きが採られています。

先月、ADR原子力損害賠償紛争解決センター)の活動状況報告が示されました。これによると、原発事故から令和2年12月までの全申立件数は26,407件であり、その内訳は、和解成立が20,562件、和解打ち切りが2,228件、取り下げが2,900件、却下が1件、和解仲介しないが1件、未解決(現在も審理中)が715件だったそうです。

ここで注目していただきたいのが、和解打ち切り2,228件です。一見すると東電が一方的に和解に応じず打ち切った件数がこれほどの件数に上ると思われますが、実際の和解打ち切り理由は他にもいくつか理由があるため正しい情報をお伝えします。

活動状況報告書の続きを読んでいくと、まさに和解打ち切り理由が掲載されています。約67%がADRが申立人(被災者)の請求権を認定できず、約5%が申立人側による和解案拒否、8%が東電側による和解案拒否、15%が申立人側と連絡がつかなかったり連絡に応じない、約5%がその他となっています。

よく目にする新聞・雑誌等では、「東電 和解案拒否!!」等のあたかも東電が一方的に和解案拒否するような見出しが付きます。実際は、約92%が東電拒否以外の理由によって打ち切りとなっています。

事実拒否もしているため東電を擁護する気はありませんが、メディアの情報に踊らされずに、正しい情報を得て正しく批判するように気を付けたいものです。

住居確保にかかる費用の賠償について考える

東電が、国によって定められた「中間指針」に則って賠償していることはこれまでお伝えした通りですが、ここでは中間指針の第四次追補で示された生活再建のための賠償である「住居確保賠償」について、どういった賠償であるか説明していきます。

この賠償を簡単にお伝えすると、新しく家を購入するための費用を賠償するものとなっています。

一見、避難して元の家に戻れないのだから当然賠償すべき損害だ!と思ってしまいそうですが、実はこれ、法律の世界では極めて異質な賠償と考えられています。

例えばもし私が他人のものを壊した場合、新しく買いなおす費用を賠償する訳では無く、そのものの修理代を補填することが一般的とされており、これを原状回復費用と呼びますが、住居確保賠償ではその原則を飛び越えています。

では、なぜ修理代を補填することが一般的とされているかと言うと、不法行為により壊した資産には不法行為時の時価があります。同じ家でも購入から1年経ったものと比較して10年経ったものの方が経年減価していますから、補填すべきはその時価額となります。

他方で住居確保賠償では、新築を建てる費用を賠償するため、これまでの家よりグレードアップした住宅も買えてしまう、謂わば錬金術賠償と呼べるでしょうか。

賠償で成金が生まれる理由(2)

前回の記事「賠償で成金が生まれる理由(1)」の続きです。まだご覧になっていない方は、そちらから読んでいただければと思います。 

さて、前回の記事では、賠償金を毟り取られ、かつそれが一度の払いで解決しない構造となっていることをお伝えしました。この記事では、損害として東電が賠償する項目の中でも、特に成金を生む原因となっているであろう賠償項目について触れたいと思います。

 

Ⅰ精神的損害賠償

イメージしやすいと思いますが、家を追われ避難を余儀なくされていることに対する賠償です。見えない損害に対する補填であり、一人あたり月10万円が払われます(現在では、一律給付という形での賠償を終了しています)。

Ⅱ生命身体的損害賠償

これは、事故によりケガや病気を患った方への賠償です。被災者は医療費が免除されていますが、ケガや病気を負わせたことに対する慰謝料の賠償となります。Ⅰ精神的損害賠償とは別に賠償されます。病院に通院1日あたり4200円が払われるようです。

Ⅲ住居確保にかかる費用

これは、避難生活を脱して新たな生活の再建をしていただくため、家を買うための費用を賠償するものです。賠償金額は異なりますが、元々の住居が持家であるか賃貸であるかを問わずに賠償されます。

 

いかがでしょうか。元々持っていた家や家財などに対する賠償であれば、現状回復賠償であり成金は生まれようはありません。しかし、このような項目は目に見えない損害に対する賠償を行っていますから資産に余裕が出てくるのでしょう。これ以外にも賠償項目がたくさんありますので、懐に入る賠償金の総額は計り知れません。

なお、今一度述べますが、私はこれが悪だ!ということを伝えるつもりはありません。事実、成金を生んでしまった原因を作ったのは間違いなく東電です。また、上記の損害に対する賠償はすべきでない!というつもりもなく、寧ろ本当に苦労されている被災者の救いになっている賠償金であることも事実でしょう。

 

過去に例のない損害賠償であるがゆえ、いくらが適正金額であるべきかも誰にも解りません。しかし、その資金源が税金である以上、成金を生むような賠償金額の設定は改めるべきだと思います。

賠償で成金が生まれる理由(1)

東電からの賠償金で、パチンコ三昧の生活を送ったり、レクサスをキャッシュで購入したりと、仕事もせず悠々自適な生活を送る避難者がいると聞いたことはあるでしょうか。

この記事では、賠償金暮らしをする成金の批判をするものではありませんが、なぜそんなにたくさんの賠償金額を受け取ることができるのか。そのメカニズムを考えてみます。

さて、みなさんの中に交通事故を起こしたことがある方はいますでしょうか。その際に補填すべき費用としては、至極当然ですが「修理費用」を払うことになります。しかも、事故の原因が相手のムチャな運転によるものであるにもかかわらず、割合による事故の清算がされることが多くあります。自分は被害者なのに納得いかないこともあるでしょう。

では、原子力損害賠償ではどうでしょうか。原子力損害賠償法(原賠法)では、一般的な不法行為民法709条)と決定的に異なる考え方として、「無過失責任・責任集中」という考えが採られています。これは簡単に言うと、原子力発電事業者(東電)に過失が全くなかったとして、その責任すべてを東電に負わせるというものです。

なぜ、このような東電不利な法律が定められているかと言うと、多くの被害者を生み故郷を喪失させるとても大きな原子力損害について、事業者の過失を要件に課してしまうと、賠償金を受け取られずに路頭に迷う方が大量に生まれてしまうことになるからです。先ほどの交通事故の例で考えてみると、東電が事故を起こした場合、相手側に割合負担を課すこともできなければ※1、賠償額も「修理費用」だけに留まりません※2

 

つまり、東電は完全にノーガードで賠償金を毟り取られる構図であり、さらには挙句の果てに1度払って将来的に解決することもできず、損害が継続する限り払い続けるのです。

※1東電が事故を起こしたのは間違いないが、被害者にも損害を可能な限り回避することが求められるとの解釈もあるが、実態として機能していない。

※2「修理費用」を払えば十分であるハズが、国が定める「中間指針」に従った賠償をしなければならない。

処理水を海へ流すとどうなるかを考える

本日、政府がトリチウムなどの放射性物質を含む処理水を海洋放出する方針を固めたとのこと。

この話をするにあたり初めに述べておくと、処理水自体は自然界に存在する放射線濃度以下であり有害なものでは無いと言えます。

 

さて、キチンとした処理を経て流される処理水ですが、他に何か問題はないのでしょうか。

 

ここでやはり懸念されるのは「風評被害」をもたらすことです。

それがたとえどれほど安全であったとしても、人は福島県沖周辺の魚を敬遠するでしょうし、そうなれば当然に漁業を生業としている方への賠償問題は避けて通れません。

加えて、福島沖から東北沖、さらには日本近海で取れた魚の取引を停止する事業者、果ては輸入制限(これまで韓国が輸入制限したことが話題になりました。)も考えられます。

 

いかがでしょうか。ここまで述べたことはごく一部の損害であり、被害は海産物に限らずその他多くの食品類、果ては日本製の商品にも広く及ぶかも知れません。

国と東電は、損害が発生すれば丁寧に対応していくと述べており、賠償に応じる姿勢を見せています。

再び目に見えない「風評被害」との戦いが始まることを思うと、東電の福島への責任を全うする日は来るのでしょうか。

賠償金は今年度にも10兆円を超す見込みです。これも一つの通過点に過ぎず、まだまだ多くの問題が山積みと言わざるを得ません。

中間指針では不十分?

東電の賠償指針は、原子力損害賠償紛争審査会が示す「中間指針」を基本として賠償しております。

その指針を十分に斟酌し、請求書パックという形に落とし込み、多額の賠償金を支払ってきました。

例えば、個人の方であれば、精神的損害・避難費用・不動産・家財などの動産のパックがあります。また法人であれば、営業損害・農業・償却資産などのパックがあります。これはほんの一部に過ぎません。

こうしてみると、幅広い損害に対してしっかりした賠償を行っているように見えますが、それは昔の話のようです。

事故から時が経ち、損害を証する資料が見つからないケースや、これ以上は払えないとして東電から対象外の通知が届くこともあるようです。

 

東電はしっかり賠償をやり切ったのでしょうか?

 

答えは、昨今の裁判やADRにおいて、中間指針を上回る判決や和解が出されていることを踏まえると、決して十分ではないと言えるでしょう。

 

中間指針の良し悪しは私には分かりませんが、近い未来に見直される可能性はありそうです。

あの日から現在、そしてこれから先も…

はじめまして

初めてブログを開設しました。よろしくお願いします。

 

ここでは、2011年3月11日に発生した東京電力福島第一・第二原子力発電所の事故による損害賠償の情報を発信していくブログです。事故から10年を経過しても、なお継続する現在の状況を私なりの視点でお伝えできればと考えています。

さて、初めに申し上げておきますが、ここでは原発や東電に対する批判をするつもりはありません。

私個人の意見は、確かに憤る気持ちもある中、誰もやり遂げたことのない廃炉・賠償に対して批判する立場にないからです。

廃炉ではもはや東電に任せる他ありませんし、賠償では普通の不法行為ではありえない多くの被害者を生んでしまった惨状を、いち民間企業が解決できるはずもありません。

 

東電や国は、あの日から現在、そしてこれから先も…、答えのない長い事故収束への対応を彷徨いながらやる他ないのです。